いにしへの日は 三好達治

いにしへの日は

 

いにしへの日はなつかしや 

すがの根の ながき春日を

野にいでて げんげつませし 

ははそはの 母もその子も 

そこばくの 夢をゆめみし 

ひとの世の 暮るるにはやく 

もろともに けふの日はかく 

つつましく 膝をならべて 

あともなき 夢のうつつを 

うつうつと かたるにあかぬ 

春の日を ひと日旅ゆき 

ゆくりなき 汽車のまどべゆ 

そこここに もゆるげんげ田 

くれなゐの いろをあはれと 

眼にむかへ ことにはいへど 

もろともに いざおりたちて 

その花を つままくときは 

とことはに すぎさりにけり

 

ははそはの ははもそのこも はるののに

あそぶあそびを ふたたびはせず

 

 

 

過ぎ去った日々が 懐かしい

 

遠い昔のあの頃 子供の私は 若い母と共に

春の野原でれんげを摘んだ

 

夢の中で夢をみるように 様々な記憶がよみがえる

人の一生が過ぎ去るというのは こんなにも早いものだろうか

 

今日のこの日は つつましく

年老いた母と私で 共に膝を並べている

 

後戻りすることはできない 昔の日々

夢とも現実ともつかない まどろみのようで

ぼんやりとしていて  語ることができない

 

今日のような春の日に 母と共に旅に出た

 

何気なく 汽車の外に目をやると

辺り一面 紅に染まったれんげが

しみじみと 眼にうつる

 

とはいうものの

花の中に母と共に降り立って

れんげの花を摘むという

そんな夢のような日は 永久に過ぎ去ったのだ

 

 

母もその子供も 春の野原に

昔一緒に花を摘んだような

そんなことをする日は 二度とこないのだ

 

 

 

解釈

ノリと、勘で、解釈してみました(笑)

今が一番いい、というのはよく言われることですが

昔の日々が過ぎ去っていき、もう手を伸ばしても届くことがない、人の一生はそのようにあっという間に過ぎ去ってしまうな……という

内容の詩ですね。

 

江國香織 『つめたいよるに』 新潮社

の中にでてくる「夏の少し前」という内容で出てくるので、解釈してみました。

 

そして、朗読まで作ってしまいました

【朗読】いにしへの日は